たぴ岡文庫

今宵も語る、どこかの誰かの物語

小説「私は」

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 私は何か、貴方にひとつでも残せていますか。私は何か、貴方の心に残ることをできていましたか。私は何か、貴方の記憶に刻めてますか。私は何か、貴方を傷つけてやしませんか。私は何か、貴方から奪ってはいませんか。私は、私は。

 貴方のその表情、私に何をくれたでしょう。喜び、怒り、悲しみ、楽しさ、感情の全て、そして愛。貴方のその言葉、私に何をくれたでしょう。私というもの全て、貴方がくれたのです。

 失って気付く大切さは、失う前には気付けやしません。貴方もそうでしたか?

 私はそうでした。失う前から知っていた大切さは、失ってから私を苦しめるだけでした。気付いていようがいまいが、失ってしまうなら何も変わりやしない。私はそう思ったのです。

 失う前に全てを伝えられるのなら、失ってしまった後の言葉すらも伝えられるのならば、何も悔いはないのでしょうか。何も、辛くはないのでしょうか。苦しくはないのでしょうか。そんなことが有り得るのでしょうか。

 どうか、どうか教えてください。私は貴方がいないと耐えられません。貴方がいないと生きられません。貴方がいないのなら、何も意味を持ちません。

 どんなことだって人間というものは神に願おうとします。助けてください神様、と。私は神を信じません。そんなものはどうしたっていないのですから。きっといつか科学が証明してくれるでしょう。きっといつか創作だとわかるのでしょう。

 だけど今は、今だけは、縋らせてください。頼むからどうか、私を助けて。頼むから、どうか私を、見捨てないで。