小説「愛」
君は愛について考えたことはあるかい? そうだね、君はあまり考えないだろうね。けれど僕はいつだって考えているんだよ。
愛という物は形にならない。目に見えはしないんだ。それなら聞こえるものなのか? いや、そうでもない。つまり、愛とは何なのか。
僕は、何度考えたって答えに辿りつけなかった。君という恋人がいるのに、愛してくれている両親がいるのに、大切な守るべき兄弟がいるのに、僕には全くわからないんだよ。
でもきっと、それは人によって表現の仕方が変わってくるものなのだろうと思う。これはまぁ、僕の憧れの人の受け売りなんだけど。でも僕だって本当にそう思っているんだ。
兄は泣いている僕を抱きしめて、頭を撫でてくれた。母はいつも笑顔だけどときには厳しく、父はいつだって厳しかったけど僕ら家族のために一生懸命働いてくれた。子どもながらに僕はそれらをしっかり理解していたし、今だってちゃんとわかっているつもりだ。まぁ、つもり、なんだけどね。
そして君は、言葉で伝えてくれた。好きだと。愛していると。
僕にとってのそれは何だったろうか。
君に何をしてあげられただろうか。何かをしてあげられただろうか。
きっと僕は口には出さなかった。きっと僕はプレゼントだって、サプライズだって、出来ていない。きっと僕は君のためにしたことなんて、ひとつもないんだろう。だから君は夜ひとりでずっと泣いていたんだよね。
ごめんね。
でもこれは信じて欲しい。大好きだったんだ、君のことが。
君に何かしてあげられるような、かっこいい男じゃなかったかもしれない。君に何か残してあげられるような、素敵な男じゃなかったかもしれない。
でも、愛していたことは一生残る。何があっても、残すんだ。
知っていただろうか、僕がこんなにも君を好きだったことに。
まぁ、もう聞こえていないのかもしれないけど。
目の前に広がる君の景色は美しすぎる、恍惚とさせるものだ。君にも見せてあげたかったけれど、この芸術は、この作品は君なしでは完成しないから。
壁に寄りかかってうつむく君は綺麗だね、いつもよりずっと。赤黒く染まった、妖精のような真っ白のワンピース。ところどころ切り裂かれたようにあいている穴。綺麗に首に残る縄の跡。木製の床と、ばらまかれた大量の錠剤。クリーム色がベースの赤が飛び散った壁紙。肺を満たす君の香り。まだ生暖かい君の欠片。僕の手のひらに残る乾きかけた君の愛。
あぁ、かわいいよ。美しいよ。綺麗だよ。大好きだ。
ごめんね、大好きなんだ、愛してしまったんだ。
僕じゃなければ、君はこんな風にはならなかった。僕じゃなければ、君は普通の幸せを楽しめた。本当にごめんね。僕のせいなんだ。恨んでくれてもいい。
でもね、よく考えて?
僕のこと好きでしょう、愛しているでしょう、大好きでしょう、ずっと一緒にいたいでしょう、永遠になりたいでしょう。
僕は君の作者になる。君は僕の最高傑作。
こんな愛の形があっても、おかしくないよね?
あ【愛】時にそれは狂気へと変わる