小説「世界で一番幸せな僕」
風を感じる。何となく、生きているんだと自覚させられる。しかし、こんなタイミングでそんなことを説かれても、僕は困るばかりだ。
みんな、何をしているのかな。僕を嫌いな君たちは、何も感じたりはしないだろうな。僕の気持ちなんて少しもわからないお前たちは、涙なんて知らないままで。僕とは反対に裕福なあんたたちは、そんなことでと嘲笑うんだ。
何もかもが僕を批判する。知っているさ。僕は誰よりも価値のない人間だ。
誰かは言った。生命の価値は平等だ、って。それは嘘だ。ずっと信じていなかった。でも、ほら、僕の勝ちだ。だってそれを証明したんだから。
まぶたの裏で、今までの記憶がよみがえる。どれだけ憎んだことか。幸せなことなんてひとつもなかった。僕は、世界で一番不幸な人間だったさ。
「幸せだったね」
耳に届いた僕の声は、涙と一緒に風に飛ばされた。本音はそうだったのかな。
僕の思考は置いてきぼりで、灰色がずんずんと近づいてくる。
そうか、幸せだったのか。それなら、もういいね。
最後の笑顔は君のために。
アスファルトにキスをした。